杉原法子
 
10月は教皇様による福音宣教特別月間になっています。今日はちょうど、福音宣教の原動力となっている聖フランシスコの祝日です。聖フランシスコは、神と他者と自然と自分自身との見事な調和を生きた平和の使徒です。常に喜びと真心を持って生き、被造物と貧しい人や見捨てられた人、特に傷つきやすいに対する気遣いの最良の手本でもあります。
フランシスコは、イタリア、アシジの裕福な織物商の家に生まれ、快楽を求め自由奔放な青春時代を過ごしました。騎士として戦場に赴き、そこで病を得て帰郷。病床でイエス・キリストに出会い、イエスに従う決心をします。持ち物を貧しい人びとに与え、自らは粗末な服をまとって巡礼の旅に出ました。
アシジの壊れた聖堂で祈っていたとき、教会を建て直すようにとのキリストの声を聞きます。フランシスコはすぐに聖堂の再建に取り掛かったのですが、その意味は、当時の乱れた教会を建て直すことでした。フランシスコは同志を集め、キリストの教えの通り、徹底した清貧の道を歩き始め、堕落していく社会と教会への逆らいのしるしとなりました。わたしには現代の「疲れている教会」の変革を呼びかけておられる現フランシスコ教皇様の姿と重なります。
聖フランシスコの祈りの中核にあるのは、キリストの受難の黙想でした。フランシスコは十字架を担って生きることを最上の喜びとし、その生涯は十字架に貫かれていました。死の2年前1224年には、キリストが十字架に付けられたときに受けた5つの傷、聖痕を受けたといわれています。その激しい苦しみの中で歌ったのが『太陽の賛歌』で、すべての被造物をとおして与えられる神の恵みに感謝と賛美をささげています。フランシスコ教皇様の回勅「ラウダト・シ」はこの言葉をもって始まり、壊されていく美しい地球を守るよう訴えておられるのです。
 
「フランシスコの祈り」
主イエス・キリスト、私は死ぬ前に二つのお恵みを祈り求めます。一つは、私が生きている間に、やさしきイエス、あなたがあのひどいご受難の時に耐え忍ばれた苦しみを、私の霊魂と肉体において、できる限り強く感じることができますように。もう一つは、神の御子イエスが、私たち罪びとのために愛に燃え、あのような受難を耐え忍ばれたこの上ない愛を、できる限り強く、私の心に感じることができますように。私がいかなる病苦、いかなる苦悩や苦痛にあっても、あなたから離れることのないようにしてください。
フランシスコはイエスへの愛のために、苦しみ、侮り、恥、不便を喜んで堪えるという賜物こそ何物にも勝る喜びであると言っています。その生涯は、キリストのしもべとして貧しく愛にあふれるものであり、現代まで世界中の人びとに大きな影響を与え続けている。
 
「太陽の歌」(創造主への賛歌) -聖ダミアーノ聖堂の傍らで- (1224年冬-1225年)一部割愛
たたえられよ、わが主、あなたのすべての被造物 特に兄弟なる太陽によって。 太陽は大空をめぐり、われらを照らす。太陽は美しく、大いなる輝きを放つ。いと高き御方、太陽はあなたを表し示す。
たたえられよ、わが主、姉妹なる月と星によって。 あなたはそれらを明るく、尊く美しく天に造られた。
たたえられよ、わが主、兄弟なる風と空気と、雲と空と あらゆる天候によって。 あなたはそれらをとおして すべての被造物を養い保たれる。
たたえられよ、わが主、姉妹なる水によって。水はまことに謙遜で、尊く清らか。たたえられよ、わが主、兄弟なる火によって。あなたは火によって夜を照らされる。 火は美しく喜ばしく力があり、強い。
たたえられよ、わが主、われらの姉妹、母なる大地によって。大地はわれらを支え、はぐくみ色とりどりの花を咲かせ、草を生い茂らせ数々の実を結ばせる。たたえられよ、わが主、あなたの愛のために人をゆるし 病気や困難を耐え忍ぶ人によって。平和な心で耐え忍ぶ人は幸い。いと高き御方、彼らはあなたから栄冠を受ける。
 
あなたはどのようなときに、神様がおられると感じますか。深い祈りの中で、神秘的な体験をし、そこで神様と出会うことができたら、それが一番理想的なことでしょうが、誰でもができることではないでしょう。大自然そのものが神の存在を証明してくれます。
私もそう実感することがあります。大自然の中に身をおくと、理屈ぬきにそう感じることができます。誰でもできる神様の存在を感じさせる「神体験」とはそのようなものではないでしょうか。
この太陽の賛歌は、三つのもので構成されています。太陽から始まり、大空、月、星、風、空気、といった自然のあらゆる要素が主とともにたたえられています。いわゆる「自然への呼びかけ」の部分です。最後の方で、神様の愛のために、人を許し、病気や困難を耐え忍び、平和な心で耐え忍ぶ人達が、神様によって幸いなる人として天国の栄冠が受け入れられることが祈られています。「ゆるしの賛美」です。次に自分に迫っている死の受け入れと永遠の命の世界に招いてくださる神様への信頼がうたわれています。「死への賛美」です。
最後に、自然の中に神に愛されている自分を観想する恵みを願いましょう。
 
私たちの地球のための祈り
 
 全能の神よ、
 あなたは、宇宙全体の中に、
 そしてあなたの被造物のうちでもっとも小さいものの中におられます。
 あなたは 存在するすべてのものを
 ご自分の優しさで包んでくださいます。
 いのちと美とを守れるよう
 あなたの愛の力をわたしたちに注いでください。
 だれも傷つけることなく 兄弟姉妹として生きるために、
 わたしたちを平和で満たしてください。
 おお 貧しい人々の神よ、
 あなたの目にはかけがえのない
 この地球上で見捨てられ、忘れ去られた人々を救い出すため、
 わたしたちを助けてください。
 世界を貪るのではなく、守るために
 汚染や破壊ではなく、 美の種を蒔くために
 わたしたちのいのちをいやしてください。
 貧しい人々と地球とを犠牲にし、利益だけを求める人々の
 心に触れてください。
 それぞれのものの価値を見いだすこと、
 驚きの心で観想すること、
 あなたの無限の光に向かう旅路にあって
 すべての被造物と深く結ばれていると認めることを、
 わたしたちに教えてください。
 日々ともにいてくださることを、あなたに感謝します。
 正義と愛と平和のために力らを尽くすわたしたちを、
 どうか、勇気づけてください。